ポール・ディティシェイム K14ケース 前
本日ご紹介するのは「ポール・ディティシェイム K14ケース」です。
先日ご紹介した「バセロン・コンスタンチン(http://watchserviceman.blog85.fc2.com/blog-entry-300.html)」と合わせて
ウチの宝物にしてもいい位の時計です。



製造年代は1910年頃。19石・5振動。
石数は多石と言われるほどではありませんが、
2番車(中心の車)の受け&地板にしっかりと石が埋め込まれています。
ちなみに、普通の19石はアンクルの受けと地板に石の保油カバーをつけ
2番車には使用しておりません。
しかし、この機械は全ての輪列の軸受けに石が使用されて、ホゾの抵抗を減らしています。
決して華美ではありませんが良く考えられて作られている印象を受けました。
で、この時計の目玉が「ギョームテンプ」を使用していること。
ギョームテンプは通常のバイメタル切テンプより
温度補正に優れたより精度の高いテンプです。
今まで色々と機械を見てたなかで、
「ギョームテンプかも?」と思ったのは一つ二つありましたが、
正真正銘の「ギョームテンプ」は初めてです。

↓
いつもお世話になっているお客様よりご指摘を頂きました。
「COMPENSATEUR」という仏語は、英語で「Compensator=補償器」と言う意味で
工学分野では、電子回路や機械などの機構や制御において、
誤差、変動や特性バラツキなどを技術的に補正する人、装置という意味になるとのことです。
ですので、「COMPENSATEUR GUILLAUME」は
「ギョーム式(温度)補償器」という意味になるとのこと。
本当にありがとうございました!
いつもこうして色々な方よりアドバイスをいただけるのは、本当に幸せな事です。
皆さまによって生かされている・・・改めて実感いたしました。感謝です!
(追記・2010年9月19日)
一般のバイメタル切りテンプは、切れている所がアミダのすぐ近くですが
ギョームテンプはアミダから若干離れていて、チラネジが大きい。



で、白いチラネジはPtかも!?

ところで、この時計、時刻合わせは竜頭式。


左がゼンマイ巻き位置、右が時刻合わせ位置。
文字板の下はこんな感じ。

綺麗でしょ!
更に裏輪列の歯車の隙間(アガキ)が少ないのも
精密な高い技術の一端が垣間見られます。

一般の時計はもっとアガキがある。でもご覧の通り隙間は必要最小限。
アガキが大きいと時刻合わせをしてから針が動き出すまで十数秒タイムラグがあります。
でもこれだけ精密に噛み合っているとタイムラグはほんの数秒程度ではないでしょうか。
また、テンプの受け側の受け石座も一工夫。

ちゃんと嵌め込む方向が決められている。
なお、もちろんお約束のゼンマイ巻止め機構は欠品せずにちゃんとあります。
一事が万事。とても高い技術によって精密に丁寧に作られた機械です。
肝心の精度はゼンマイ全巻で以下の通り。
DU約+10s/d、12U約-10s/d、3U約+10s/d、6U約+30s/d、9U約+10s/dで
最大誤差約40s/d。
ゼンマイ全巻き時のテンプ振り角は約270°。
姿勢差は、せっかく綺麗なギョームテンプに
チラザを加えるのは忍びないので敢えて修正しませんでた。
今は知られていない昔の名品をご紹介するのも
私達の大切な仕事の一つじゃないかと思う、今日この頃です。
次回はこのメーカー「ポール・ディティシェイム」についてもう少し書きたいと思います。
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